人がどこかを訪れたり、何かのプログラムに参加するとき、
その人は単なる知識や情報ではなく、自分にとっての本質的な“何らかの意味”を求めている。
自然や文化そのものが私たちに語りかける固有のメッセージを読み解き、人々に通訳して伝えるガイドとしての専門職、「インタープリター」。
イエローストーンやヨセミテをはじめとする、アメリカの国立公園を中心に発展してきたそうしたガイドの役割は、“人々を迎え案内する” コミュニケーションの手法として、自然ガイドや自然体験プログラム、観光ガイド、博物館や美術館、図書館、動物園や水族館、大学や教育機関など、さまざまな場面で取り入れられています。
本書は、狩猟採集社会から続く人類のガイドの歴史を振り返り、インタープリテーションと言われるガイドの役割や考え方、心構えを読み解きながら、実際のガイドプログラムを組み立てる方法や、ビジターを前にした実践での伝え方やトークのテクニックなどがまとめられています。
自然や地域の景観、対象の資源に対して、訪れた人々が自分なりの「結びつき」を感じたり、自分にとっての「何らかの意味」を見出せるように、インタープリターはどのように人々を触発し、どのようにメッセージを伝えればいいのでしょうか。『インタープリターズ・ガイドブック』はガイドの入門書として、「人を迎え、人に伝える」仕事に関わるすべての人にとって、実践に役立つ一冊となるでしょう。
本書『インタープリターズ・ガイドブック』は、1994年に出版された『インタープリテーション入門──自然解説技術ハンドブック』(日本環境教育フォーラム監訳、小学館)の改訂版です。94年版の原著はアメリカで出版された『The Interpreter’s Guidebook (Third Edition, 1994)』ですが、その後2015年に内容が大幅に加筆・修正された第4版(Fourth Edition, 2015)が本国で出版されたのを受けて、新たに翻訳・編集を行い、日本語版の新しいタイトルで出版することになりました。
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本書の内容
● インタープリテーションのルーツ
太古の狩猟採集社会の人々は、自分たちの進むべき道を示すガイドという存在に頼って暮らしていました。ガイドは、場所から場所へと人々を案内するのと同時に、精神的に人々を導くという役割を担っていました。ここでは、インタープリテーションのルーツであるガイドの起源をたどり、近代の自然保護運動や国立公園制定の流れを経て、インタープリテーションと呼ばれる専門職がどのように発展していったのかを探ります。
● 意味を中心としたインタープリテーションとは何か?
インタープリテーションとはどのような活動や考え方を指すのでしょうか? ここでは、「意味」を中心としてインタープリテーションを捉え、活動を構成する3つの要素の相互作用を検討します。つまり、ビジター、対象の資源、インタープリターという要素が互いに関わり合うことでインタープリテーションが生じるのであり、インタープリターがその3者のコミュニケーションを促します。また、フリーマン・チルデンが定めた「インタープリテーションの6つの原則」を、具体的な活動例を交えて詳しく紐解きます。
● 「テーマ」を元に実際のプログラムを組み立てる
実際のプログラムを計画する上で重要な要素が「テーマ」です。参加者に向けてただ漠然と知識や情報を伝えるのではなく、プログラム全体を貫く一つのテーマを設定することで、プログラムの要点をまとめ、その全体像を提示します。そうすることで、プログラムがより印象的で記憶に残るものになるのです。そうした「優れたテーマ」を設定するための段階的なステップを紹介し、「テーマプランニング・ワークシート」を使ってプログラムを組み立てる方法をまとめています。このワークシートはホームページからダウンロードできます。
● 参加者とのコミュニケーション、さまざまな伝え方のテクニック
コミュニケーションは、相手とのやりとりの中でさまざまな情報やメッセージを互いに交換する行為です。そのときには、言葉によるコミュニケーションだけでなく、非言語のコミュニケーションとして顔の表情、アイコンタクト、声(発声)、姿勢、外見などといった数多くの要素がさまざまなメッセージを相手に伝えています。ここでは、ビジターとのコミュニケーションを進める上で意識すべきポイントを紹介しています。また、さまざまな伝え方のテクニックとして、小道具を使う、ユーモアを交える、実演する、コスチューム(衣装)を着る、ストーリーテリングなどの方法を具体例を交えて紹介します。
● さまざまな状況に合わせたインタープリテーション
フィールドを移動しながら解説を行う「ガイドウォークやガイドツアー」、移動を伴わない「トーク」やスライドを使った「プレゼンテーション」、プログラム以外の非公式な場面における「自発的のインタープリテーション」、「子どもを対象にしたインタープリテーション」など、さまざまな状況を想定したインタープリテーションのポイントと伝え方のヒントを各章に分けて紹介しています。
本書の特徴
● たくさんの写真や図
● 実践に役立つティップス(ヒント)集
● 実践例やケーススタディ
● さまざまな発表方法の動画リンク(QRコード付き)
● ダウンロードして使えるワークシート
目次
日本語版への序文 ii
序文と謝辞 iv
訳者まえがき vi
第1章 インタープリテーションのルーツ
ガイドの起源 4
自然学習運動 10
自然保護運動 13
国立公園初期のインタープリテーション 15
アメリカの初期の文化的インタープリテーション 26
専門職としてのインタープリテーションの発展 30
インタープリテーションの開花 33
第2章 意味を中心としたインタープリテーション
インタープリテーションとは何か? 42
意味を中心としたモデル 44
インタープリテーションの原則 54
インタープリテーションの目的 62
教育活動との違い 64
優れたインタープリターに必要な素質とは 67
第3章 テーマに沿ったプログラムを計画する
インタープリテーションの3つの柱 72
効果的なプログラムを計画する 82
第4章 コミュニケーションを成功させる鍵
ビジターとのコミュニケーション 108
非言語コミュニケーション 111
メッセージ 120
マルチ知能 125
信頼性を高める 127
干渉要因を克服する 128
注意が散漫なビジター、場をかき乱すビジター 130
第5章 クリエイティブな伝え方のテクニック
小道具/視覚教材 136
ユーモア 139
質問のテクニック 142
ストーリーテリング 146
イメージ誘導 149
実演 152
コスチューム 155
生き物のプログラム 160
音楽、動作、音 165
第6章 インタープリテーションのトーク
インタープリテーションのトークの基本 172
トークの構成を組み立てる 175
トークでの発表のテクニック 185
すべての要素を組み合わせる 196
スライドトーク/マルチメディア・プレゼンテーション 202
第7章 ガイドウォーク&ガイドツアー
ガイドウォーク/ガイドツアーとは 228
ガイドウォーク/ガイドツアーを計画する 235
ガイドウォーク/ガイドツアーの構成 237
ガイドウォーク/ガイドツアーの発表のテクニック 244
すべての要素を組み合わせる 256
第8章 自発的なインタープリテーション
自発的なインタープリテーションとは 266
インフォメーション・デスク/窓口 274
第9章 子どもを対象にしたインタープリテーション
インタープリターのための子どもの発達理論 280
学校や青少年団体との連携 290
人形を使ったインタープリテーション 295
年代の異なるグループ 297
第10章 フィードバックを集める
評価の基本 302
段階的な評価を行う 304
著者紹介 322
インタープリターズ・ハンドブック・シリーズ 324
監訳者あとがき 327
参考文献 330
画像出典 334
著者紹介
(左から)ロン、ジム、ブレンダ、マイク
ロン・ジマーマン Ron Zimmerman
ウィスコンシン大学スティーブンス・ポイント校にある自然のフィールド「シュミークル保護区」の代表であり、そこで自然資源学部(College of Natural Resources)におけるインタープリテーション・プログラムの開発に取り組む。インタープリターズ・ハンドブック・シリーズを手掛けた初代メンバーであり、コンサルタント・チーム「シュミークル・リザーブ・インタープリターズ」の創設メンバー。子どもの頃にネブラスカの草原で過ごした経験が、自身の原体験となった。
ジム・ブックホルツ Jim Buchholz
シュミークル保護区副代表。ウィスコンシン大学スティーブンス・ポイント校インタープリテーション講師。コンサルタント・チーム「シュミークル・リザーブ・インタープリターズ」のメンバーで、専門はメディア・デザイン。自らの自然史に対する熱意は、ウィスコンシン州立公園で過ごした幼少期の体験を通して育まれた。
ブレンダ・K・ラッキー Brenda K. Lackey
ウィスコンシン大学スティーブンス・ポイント校インタープリテーション准教授。学術誌『ジャーナル・オブ・インタープリテーション・リサーチ』の編集委員であり、全米インタープリテーション協会の役員を務める。以前はインタープリティブ・パークレンジャーとして8年間勤務し、アメリカ陸軍工兵司令部と共にミシシッピ川上流部で活動を行った。
マイケル・グロス Michael Gross
ウィスコンシン大学スティーブンス・ポイント校、自然資源学部名誉教授であり、同学部におけるインタープリテーション教育プログラムの共同創設者。また、インタープリターズ・ハンドブック・シリーズを立ち上げ、コンサルタント・チーム「シュミークル・リザーブ・インタープリターズ」のメンバーも務める。アイオワ州の農場で過ごした子ども時代の経験を通して、自然に対する情熱を育んだ。
書評・コメント
古瀬 浩史さん (日本インタープリテーション協会 会長、帝京科学大学アニマルサイエンス学科 教授)
『インタープリターズ・ガイドブック』は、日本でインタープリテーションに関する本としては(たぶん)最初に出版された『インタープリテーション入門』(小学館、1994年)の改訂版です。『インタープリテーション入門』は、僕の手元にあるものを見ても2008年に9刷がでているので、日本で出版されたインタープリテーション関連本としてはベストセラーではないかと思います。その本の満を持しての改訂版ですので、期待が高まります。
原著は、ウィスコンシン大学の関係者によって書かれています。ウィスコンシン大学はインタープリテーションの祖の一人、ジョン・ミューアの出身校としても知られており、環境教育とインタープリテーションに関するコースを持っています。実践的な活動も盛んなようで、州立公園などのインタープリテーション計画に関与している例も多くあります。それらの教育や実践に基づいて書かれているものだと思います。
さて、本を概観しての感想としては、「ガイドブック」の名の通り、現場のインタープリターにとって有益な実践寄りな内容だと思いました。少し前に日本インタープリテーション協会理事でもある金沢大学の山田菜緒子さんによって翻訳出版されたサム・ハムの『インタープリテーション:意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術』はどちらかというと、社会心理学などの研究に基づいた理論をていねいに扱っているのに対し、本書は具体的な事例が多く、より実践寄りです。この2冊を両方読むと、最強だと思います。
写真も多く、入門者にも向くと思います。もちろん理論的なベースはしっかりしており、サム・ハムやアメリカ国立公園局などと共通する基盤を持っているように思えます。 本書の解説で、特にいいなと思ったのはテーマ文の作成の説明です。「テーマ文」を作ることは、私たち日本インタープリテーション協会が行なっている研修会でも一番ハードルになるところなのですが、本書では、イマイチな例とそれを改善した良い例が対比されており、この部分はかなりわかりやすいなと思いました。
改定前の『インタープリテーション入門』は若いときに入手しましたけれども、インタープリターとして活動した長い期間に、ときどき書棚から取り出して参考にするような使い方をしてきました。『インタープリターズ・ガイドブック』も、現役のインタープリターの皆さまが、そんな使い方をするときっと新しいアイデアを得られるのではないかと思います。
西村 仁志さん (広島修道大学人間環境学部 教授、環境共育事務所カラーズ 代表)
まず、この本は日本語への翻訳がたいへんこなれていて、読み進めやすい(理解しやすい)です。また原著と同じくレイアウトに配慮がされていてこちらも読みやすい要因だと思います。風音さん、幹彦さんがかなり時間と手間、議論を経て日本語に翻訳されたのだと思います。
1章のインタープリテーションの歴史部分は、以前の3rd Editionよりもかなり読みごたえがあります。私はこのへんに興味をそそられていて、今回の日本環境教育学会の研究大会での発表は「インタープリテーションの現代的意義」というテーマで行っています。ここでは本書には書かれていないアメリカの社会状況が、インタープリテーションの導入や発展過程、またNational Park Serviceのミッションに関係しているとみています。おそらくですが、この本の5th Editionが出るとしたら、現代社会の生態的、社会的な危機を背景として、持続可能な社会に向かうという新しい役割が追記されるのではと思います。
2章ですが、監訳者の山本幹彦さんによれば、3rd Editionからの大きな違いは「意味を中心としたインタープリテーション」というアイデアが加えられていることだということで、本書では「意味とは資源に内在するものではなく、意味は一人ひとりのビジターによって作られる」のだと記されています。
本章では、サム・ハムの「囚われた/囚われていない」というアイデアが紹介されるように、3rd Edition以降の20〜30年のインタープリテーション研究の成果が、大きく反映されていると思います。本書が山田菜緒子さん訳のサム・ハム著『インタープリテーション:意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術』とほぼ同時期に日本語版となって刊行される意義はたいへん大きいと思います。(ぜひ、両方お読みになることをお勧めします)
3章に関連して、日本インタープリテーション協会主催セミナーの「ガイドコース」(現場のガイド、インタープリターを対象)では、解説プログラムの実演とともに、「計画シート」に記入してもらっているのですが、そこでは「テーマ文」の記述項目があります。強力で魅力的なテーマ文を作文することはなかなかたいへんなのですが、この章でそれがたくさんの例文とともに解説されているのはたいへんありがたいと思います。
4〜9章は、解説技術(テクニック)とその考え方です。もちろん3rd Edition以降に大きく進化しています(以前は、映像教材はスライドプロジェクターでしたから)。ビジターを迎える様々な現場での実践に大いに役に立つことでしょう。 また本書専用のウェブサイトもあり、オンライン資料や事例の動画なども充実しています。
10章の「フィードバック」は改善のために必須で、たいへん重要な要素です。現場でこれをどのように貰うかは、常に問われてきました。たくさんの手法が紹介されているのも、ありがたいです。
観光客の受け入れ、博物館、社会教育施設、資料館や展示施設、学校やNGO/NPOなどインタープリテーションの現場やその管理業務を担って居られる方、これから学ぶ方にとっても必携本だと思います。
高田 研さん (地球温暖化防止全国ネット 理事長、みのむし環境文化研究所 代表)
今年(2023年)の夏は気候変動の影響が世界を覆いました。日本の夏は耐え難い気温となり、地上の生物だけでなく、海水温の上昇によって海洋の生態系にも大きな影響を与えました。
このように環境の変化を顕著に感じた6月と8月に、2冊のインタープリテーションの教科書とも言える本が和訳されました。一冊目が サム・H・ハム箸『インタープリテーション:意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術』(山田菜穂子 訳・山口書店)であり、もう一冊が本書です。環境問題に直接関わる一人としての視線から、本書が今ここで出版された“意味”を考えてみました。
本書ではこの「意味」という言葉がよく使われています。インタープリテーションは“ビジターが「意味」を探求すること”であり、その探求に導くコミュニケーションのプロセスである。と定義しています。つまり、インタープリターが提示する既存の知識=これまでの諸科学が明らかにしてきた知見を伝えることがインタープリテーションではなく、個々がそれぞれの経験や価値観とつないで、新たな意味/各々の価値を見出すことにあると書かれています。言い換えれば同じ“モノ”を見て考えても見出される意味は多様であるということです。
例えば目の前に一つの林檎があるとします。“リンゴ”という一つのモノは存在しても、それを観る人がそれまでに得た体験の違いによって、全く違うリンゴの意味がそこに存在し、その場のインタラクティブなコミュニケーションを通してその違いを分かち合うことから人々がそれぞれの林檎を“再構成”していきます。本書では丁寧にこのことを事例から説明しています。
故に、監訳者の山本幹彦さんは、あとがきでこのことを1980年代後半からの「構成主義的な学びの転換」と位置付けます。これは非常に興味深い視点だと思います。日本ではまちづくり、演劇、アートから医療分野まで様々な場において「ワークショップ」と呼ばれた社会現象が広まった時代でもあります。山本さんと私はこの時期、一緒にこの現象を追いかけ、探究しておりました。
まちづくりを事例に説明しますと、都市計画や土木工学に関わる専門家と呼ばれる人々がまちを設計することが当たり前だった時代から、その場に生活する住民がその設計の場に関与し、専門家と一緒に構想していくというプロセスが“市民参加のワークショップ”です。専門家の生み出したまちづくりの知見、技術が住民の生活知の中に置き直されて、何が本当はより良いまちなのかを今ここで「構成」していくわけです。
同時代に、学校においては“参加型学習”という名前で呼ばれ、子どもたちが既存の知識を集団で探求していく学習が生まれました。背景には子どもたちの暴力、登校拒否、中途退学者が溢れた時代でもありました。それは、学校の教科書に記載された科学的な知見を子どもたちの目線から問い直していく。子どもたちが自分にとって意味あるものとして再構築していく学習への転換でありました。
参加型のまちづくりも教育改革もインタープリテーションと同様に、知識を単に受け渡しすることからの構成主義的な転換であったと言えます。 1980年代のこのような社会変化の背景には、現在世界を揺るがす気候危機が地球環境問題として顕現し、それまでの成長神話を覆してきた時期です。社会のあらゆる場面でさまざまな科学が築いてきた専門知が問い直されたことに結びつきます。
少し話がとても大きく膨らんでしまいましたが、本書で書かれていることを小手先のインタープリテーション技術と理解し、ハウツーを学びとっていただくのではなく、皆さん自身がインタープリテーションする意味を大きな視野からお考えいただく=再構築されることが、膨大な時間を費やして翻訳された山本風音さん、監修の幹彦さん親子からの“メッセージ”ではないのかと思います。
萩原・ナバ・ 裕作さん (岐阜県立森林文化アカデミー 教授)
これはいい!インタープリター、ガイド、教員。。「伝える」ことに関わる全ての人のバイブルの翻訳本がついに登場!スラスラ読めちゃいます。
『インタープリテーション:意図的に「違い」を生み出すガイドのためのコミュニケーション術』
サム・H・ハム著、山田菜緒子訳 / 2023年 / 山口書店
直販サイト:https://interpret.theshop.jp/ 詳細:https://interpretation.jp/archives/2604
Facebookページ:https://www.facebook.com/tore.in.japan
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訳者まえがき (本文より抜粋)
本書『インタープリターズ・ガイドブック』は、1994年に出版された『インタープリテーション入門──自然解説技術ハンドブック』(日本環境教育フォーラム監訳、小学館)の改訂版です。94年版の原著はアメリカで出版された『The Interpreter’s Guidebook (Third Edition, 1994)』ですが、その後2015年に内容が大幅に加筆・修正された第4版(Fourth Edition, 2015)が本国で出版されたのを受けて、新たに翻訳・編集を行い、日本語版の新しいタイトルで出版することになりました。
94年版の『インタープリテーション入門』と比較すると、改訂版の本書ではページ数が100ページ以上増え、内容がより詳細に書き加えられ、著者たちのおよそ20年間にわたるインタープリテーションの実践が盛り込まれたものになっています。例えば、第1章「インタープリテーションのルーツ」で取り上げられている、人々を導くガイドとしてのインタープリテーションの発展の歴史や、第2章の「意味を中心としたインタープリテーション」といったアイデアは、新しく書き加えられた内容です。他にも、随所に新たなアイデアや最新の状況に合わせた記述が加えられており、前回の日本語版に慣れ親しんでいる方も、新たな視点でこの本を手に取っていただけるのではないでしょうか。
本書を初めて手に取る方にとっては、「インタープリテーション」という言葉は馴染みがないかもしれません。本来の意味としては「通訳」を指し、インタビューなどの通訳者は「インタープリター」と呼ばれます。同時に、「インタープリット(interpret)」という語句には「読み解く、解釈する」という意味も含まれています。 しかし、本書で取り上げているのは「ヘリテージ・インタープリテーション」、つまり自然や文化の遺産(ヘリテージ)を読み解き、人々に伝えるという専門的な役割についてです。自然や文化が語りかけるメッセージの通訳者として、人々にわかりやすく伝えるというガイドの手法や考え方は、アメリカの国立公園を中心に発展してきました。国立公園という形で私たちの遺産を保護し、自然や文化の景観を後世に残そうとする取り組みの中で、そうした資源が持つ本質的な価値を人々に伝えることの役割を、インタープリターという専門職が担ってきたのです。
しかし、インタープリテーションとは単に、自然や文化に関する知識や情報をわかりやすく伝えるだけでも、それによってビジターを楽しませることだけでもありません。人々は、何らかの「意味」を求めてその場所を訪れるのであり、そうした意味の探求を促すことがインタープリテーションの目的だとしています。本書では、意味を中心としてインタープリテーションを捉え(第2章)、何らかのテーマに沿ってプログラムを作り上げていくための段階的なステップが紹介されています(第3章)。また、ビジターとの具体的なコミュニケーションの方法や(第4章)、メッセージを効果的に伝えるための実践のテクニックが数多く盛り込まれています(第5章)。さらに、聴衆を相手にしたトークやプレゼンテーション(第6章)、フィールドを移動して案内するガイドウォークやガイドツアー(第7章)、プログラム以外の自発的な状況でのビジターとの関わり(第8章)など、インタープリテーションのさまざまな場面におけるアプローチや実践例を取り上げています。
本書で扱うインタープリテーションの考え方は、国立公園やネイチャーセンターなどで行われている自然解説プログラムだけに当てはまるものではありません。他にも、博物館や美術館、動物園や水族館、または観光や地域づくりの分野で活動する方々にとっても、参考になるアイデアだと考えています。単に伝えたい情報やその場所の魅力を一方的に伝えるのではなく、訪れた人々がさまざまな資源を自ら体験し、そこから自分なりの意味を見出せるようにするためには、どのような働きかけが必要なのか。人を迎えるすべての人にとって、ガイドの実践に役立つさまざまなアイデアやテクニックが、この本には詰まっています。
さて、ページをめくり、インタープリテーションの旅へと出かけましょう。この大いなる旅は、インタープリテーションのルーツであるガイドの起源、つまり私たちの遠い祖先の物語から始まります。
山本 風音
『遊びながら野外で学ぼう 野外で算数:実践ワークブック(2才〜8才)』
ラーニングアウトドアの本
著:カイサ・モランデル / イェード・ストランドベリ / トシュテン・シェランデル
ロバート・レットマン=マッシュ / マッツ・ウェイドマルク / ミア・ブクト
共訳:レーナ・リンダル / 山本 幹彦 / 山本 風音
原題:Leka och Lära Matematik Ute 2018年6月出版 / ラーニング・アウトドア編 / 124ページ / 2,530円(税込)
教室を飛び出して野外で学ぼう。スウェーデン発、学校の教科と結びついた野外教育教材