野外で授業・全国ツアーレポート
【教室を飛び出して野外で学ぼう:学びの場を広げる「野外教科学習」の可能性】
野外で算数、英語、国語、歴史...。学校の教室を飛び出して、授業を野外で実践してみませんか?
学校の校庭や近くの公園、身近な森や緑には、自然の教材がたくさん転がっています。そして何より、身体を動かし五感を働かせて、めいっぱい楽しみながら活動することで、子どもたちの学びが変わっていきます。
Play & Learn :「遊びながら学ぼう」をテーマに、スウェーデンの野外教育と彼らの学びのスタイルを学びます。
全国ツアーの背景と内容
2018年6月、スウェーデンの野外教育教材「遊びながら野外で学ぼう : 野外で算数」を日本語に翻訳、出版しました。教育者向けの教材として、2才〜8才までの小さな子どもたちを対象に、野外で楽しく算数を学ぶための活動がたくさん紹介されています。スウェーデンの自然学校での実践をまとめたアクティビティ集で、この本を手にすぐにでも野外の活動が始められるようになっています。
本書の著者を代表して、スウェーデン・ニュネスハムン自然学校で野外教育を実践しているマッツとロバートのふたりを日本に招き、全国各地で野外を使った授業を紹介するワークショップを行いました。20日間に渡る日程で全国10ヶ所をまわり、13回のワークショップや小学校での模擬授業を行い、延べ 500人を超える方々が参加しました。 室内での講義だけでなく、実際に参加者の皆さんと野外に出て、本に紹介されているアクティビティを実践しました。さらに、現地スウェーデンで活動している様子や、テキストでは伝えきれない活動のポイント、どうして学びに野外が必要なのかといった背景を踏まえて、各地でディスカッションを重ねました。
〈講師〉ニュネスハムン自然学校
マッツ・ウェイドマルク(代表・右)
ロバート・レットマン=マッシュ(左)
2017年にも、同じふたりの著者を招いたワークショップを全国で開催しましたが、今回はよりステップアップした内容として、野外での学びを日本の学校や教育に取り入れていくための、具体的なトレーニングや指導者養成、ネットワークづくりやプロジェクト化を目的としています。スウェーデン各地で取り組まれている、行政との連携やカリキュラムに直接結びついた「野外教科学習」の取り組みを参考に、教え込む教育から子どもの主体的な学びへとシフトしていくための、ムーブメントになればと考えています。
ワークショップ
・千葉県市原市:森の幼稚舎【北欧流外遊びのススメ】
・東京都:国立オリンピック記念青少年総合センター【ミーティング】
・長野市:県立長野図書館【指導者養成ワークショップ・講演会】
・愛知県一宮市:大野極楽寺公園【体験ワークショップ】
・岐阜県美濃市:岐阜県立森林文化アカデミー 【指導者養成1日ワークショップ】
・長崎県諫早市:国立諫早青少年自然の家 / 諫早市こどもの城【職員・教員向け指導者養成】
・札幌市:青少年山の家【2DAYS ワークショップ】
・京都府木津川市・東部交流会館【指導者養成講習会】
・京都市上京区:Yōkai SOHO【ワークショップ&ディスカッション】
訪問先
・環境省(環境教育推進室長)
・長野県立大学
・長野県庁(副知事訪問)
・北海道当別町:当別夢の国幼稚園
・札幌市:認定こども園さつなえのもり
・当別町:西当別小学校(模擬授業)
・木津川市:相楽台小学校
プレゼンテーション : ニュネスハムン自然学校とスウェーデンの野外教育
スウェーデン・ニュネスハムン自然学校はニュネスハムン市の行政によって運営されていて、同じような官営の自然学校がスウェーデンにおよそ90校あります。学校といっても児童が在籍しているわけではなく、地域の学校から年に数回クラス毎に自然学校にやってきて、野外で様々なプログラムを体験します。活動の内容は国が定める学習指導要領に基づいており、子どもたちは野外で算数、英語、国語、歴史、技術などの教科を学びます。そのため、事前の準備とその後のふりかえりを大切にしながら、学校の先生方と一緒にプログラムを組み立てています。
「自然学校とは施設の名前ではなく、学びの方法のことをいいます。そのためには、常にアウトドアに出かける必要 はなく、教室と野外の学びを組み合わせることが大切です。教室の中で得た知識や概念を、野外で実際に試してみることで、学びをより自分のものとして身に付けることができるのです。」
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どうして野外なの?
野外には、たくさんの学びの教材が転がっています。子どもたちにとって心の底から学びたいと思えるような、自然とふれあうきっかけを持つことはとても大切です。身体を動かし五感を働かせる野外の活動は、学びの好奇心を刺激します。野外に出かけることで、子どもたちがより活動的になり、仲間と協力する力や社会性を身につけ、体験を通して主体的に学んでいくことができます。そのことは、集中力や学びの意欲、創造性や問題解決能力、自己肯定感や健康につながります。また、教室から外に出て学びの環境を変えることで、一人ひとり自分に合った学び方で学ぶことができます。それは、子どもたちの学びに対する自主性や公平性を確保することでもあります。このように、自然学校の活動は単に教科の学習を野外で行うだけではなく、一人ひとりの「生きる力」につながっていくのです。
“
何も、紙に書かれた数字や数だけが算数ではありません。それは、比較や分類を学ぶ中で自己に気づき、自分の身のまわりの世界を理解するということです。
野外教育の効果に関する研究
野外教育が子どもの成長や教育に果たす役割について調査した研究が数多く発表されています。
・野外で学んでいる子の方がそうではない子に比べて、学習に意欲的で、互いに協力し、より学んでいる(1)
・集中力や記憶力が高まり、学習の意欲や自信につながるなど、野外教育が子どもにとって効果的に働く(2)
また、自然の中で過ごすことで得られる科学的な効果についても紹介されました。
・ストレスホルモンが減少し回復力が高まる。免疫力が高まり病気にかかりにくくなる。
[1, 左]Space and Place, Emilia Fägerstam, 2012
(http://urn.kb.se/resolve?urn=urn:nbn:se:liu:diva-81318)
[2, 右]Teaching with the Sky as a Ceiling, Johan Faskunger, Anders Szczepanski, Petter Åkerblom, 2018 (http://urn.kb.se/resolve?urn=urn:nbn:se:liu:diva-151717)
野外で算数アクティビティ Mathematics
一列に並べよう Arranging the Line : 算数のことばを理解しよう
1)葉っぱや木の枝など、自然の中から好きなものを一人ひとつ取ってきましょう。
2)戻ってきたら、それらを次の基準で一列に並べてみましょう。「大きいものから小さいもの」「長いものから短いもの」「重いものから軽いもの」「古いものから新しいもの」
3)大きい小さいってどういうこと? 大きいと長いの違いは? 考えてみよう。
〈ポイント〉
・算数の「比較の言葉」を使いながら、比べる、推測することを学ぶ。
・古い新しいなど、人によって認識が違うものがありますが、コミュニケーションをとりながら、全員が納得して一列に並ぶことが大切です。さらに詳しく比較する時には、樹木や植物などの知識につなげることができます。
白い布 White Cloth : いろいろな方法で分類しよう
1)「一列に並べよう」の活動で見つけてきたものを、白い布に並べて分類しよう。
2)布の枚数に応じて、いくつのグループに分けられるか、自分たちで分類の基準を考えてみましょう。
〈ポイント〉
いろいろな方法で分類する。いろいろな種類について学ぶ。
ひもで図形(立方体)を作ろう【札幌】
リスになりきって数を学ぼう【札幌】
木の枝の角度を測ろう【木津川】
1メートルのひも 1 Meter Rope : 長さの感覚
1 メートルのひもを一人ずつ配って、ペアでいろいろな課題をこなそう。
・ひもと同じ長さのものを探そう ・同じ太さ / 半分の太さの木を探そう
・ひもは自分の靴の長さ / 松ぼっくりの長さいくつ分でしょう
・ひもで友達の背の高さを測ってみよう ・ひもで三角形 / 四角形を作ろう
・どのくらい高く / 長く飛べるかな? ひもで測ってみよう
〈ポイント〉
・1 メートルの長さを基準に、身のまわりの長さや距離を数字ではなく感覚として身につける。
小指 Little Finger : スケール(比)
1)グループごとに長さの違う木の枝を1本ずつ配ります。その枝がこれから作る人形の小指に当たります。
2)一人の子の小指の長さと枝の長さを比較して、その比率に対応するその子の全身モデルを作りましょう。小指以外の体の長さを比較しながら作ります。
・1:1、1:2 など比の用語を使いながら、比率や比例などを理解する。比を感覚として身につける。
〈ポイント〉
野外で英語アクティビティ English
〈ポイント〉
・アルファベットの文字やその音の響きを理解する。
・教室で単語を学んだ後の復習としても活用することができます。
1)マス目に A - Z のアルファベットが書かれた布を用意します。
2)その文字から始まる名前のものを見つけてきてマス目をたくさん埋めましょう。
【発展】名詞だけでなく形容詞、色の名前、想像上の名前などでも考えてみよう。
ABCの布 ABC Cloth : アルファベット
文字リレー Letter Relay : 形容詞とストーリーテリング
1)グループに分かれて一列に並び、リレーで順番に、少し離れたところに置かれたカードを 1 枚ずつ走って取りに行きましょう。カードにはアルファベットが一文字書かれています。グループで協力してたくさんのカードを集めよう。
2)集めたカードを使って、その場所に関係する、空想上のふたつの生き物の名前を考えて作りましょう(2匹のトロール、校長先生など)。そのうち、1つは良い生き物、もう 1つは悪い生き物です。自由に考えて名付けよう。
3)生き物の名前を構成する文字(アルファベット)が、その生き物の特徴を表す形 容詞の頭文字になるように、それぞれどんな生き物なのか説明してみてください。 例えば A なら、Awful(ひどい)、Amazing(驚くべき)など、すべての文字に対応する形容詞を考えます。最後に、グループごとに発表しましょう。
・事前に形容詞を学び、発音や言葉の意味を理解していることが大切です。形容詞のリストを作成して、用意しておいてもいいでしょう。自然の素材を使ってふたつの生き物を形作ったり、教室に戻って物語を考えてみたり、 いろいろな活動に発展させてみましょう。
〈ポイント〉
英語でジェスチャーゲーム 【札幌】
英語の名前をグループで相談中【一宮】
北野天満宮の一画をお借りして【京都】
・事前に動詞の英単語を学習してから、その復習として活動してみましょう。または、学習の前の導入としても 取り入れることができます。
・動詞カードを子どもたちで作り、グループで交換してやってみたり、どの動詞か当てっこしたり、一緒に工夫 しながら活動してみましょう。
〈ポイント〉
1)グループで一列になって動きます。先頭の人が、英単語がいくつか書かれた[動詞カード]の中から好きなものを選んだら、単語を声に出しながら、その言葉の意味の通り動いてみましょう(Runなら走る、Strideなら大股で歩く)。後ろの人は動きを真似しながら、全員で声に出して動きましょう。
2)少しの間動いたら、2番目の人に選ぶ役を交代して活動を続けます。
動詞を身体で表そう Doing the Verbs : 長さの感覚
ふりかえり
ふりかえりの重要性
野外の体験をただ「楽しかった!」で終わらせることなく、しっかりと学びにつなげるためには、終わった後のふりかえりが大切です。ニュネスハムン自然学校では、活動が終わった後に【OPA】(オーパ)という方法で、子どもたちどうしのふりかえりを行なっています。
1)一人で黙って自分の中で活動をふりかえる。 2)ペアになって思ったことを話し合う。 3)最後に全体で共有する。
ワークショップ参加者の皆さんのふりかえり(コメント)
・夢中になった。身体を動かすことで感覚として身についていく。
・答えを出すというよりも、自分で楽しく考えることができた。答えが一つでないのが良い。
・必ずコミュニケーションが入っているのが良い。教室の中は孤独で、野外だと仲間がいる。
・教室の中で学んだことを横断的に結びつけて学べる。視点が変わるので活動が広がる。
・野外では教科書ではなく、どんなものでも教材になる。四角い教室の中ではできない自由な発想ができる。
・教室の中では先生が同じことを教えるが、自然の中では自然が違いを教えてくれる。
マッツとロバートから
・子どもは一人ひとり考え方が違い、指導者とも違う考えを持っています。大切なのは、活動では子どもたちが主体だということ。子どもは自ら学んでいます。その中で、グループで活動するときであっても、全員で納得して進められることが大切です。指導者はそのためのファシリテートをしていく役割であり、困っているグループには、話し合いが進むようなアドバイスをするときもあります。その都度、子どもたちの様子を見渡して確認することが必要です。
・体験を学びにつなげるための、準備とふりかえりが大切です。しっかりと事前学習をして、これから学ぶモードに入るという意識づけが大事です。そして学校に戻った後は、活動の中で何を学んだのか、何ができて何ができなかったのか、そしてその要因はなんなのか。そういった質問項目を配って、しっかりと先生や仲間とふりかえりをしてもらうように伝えています。
ワークショップの合間に、スウェーデンのゲストと一緒に環境省、長野県庁、長野県立大学を訪問しました。それぞれ、ニュネスハムン自然学校での「野外で授業」の取り組みと、日本での野外教育に関するこれからの可能性について話し合いました。特に長野では県として、幼児期の子どもの自然保育を推進する「信州やまほいく」制度を取り入れていますが、野外の体験と学びを学校に入ってからも、教育現場に取り入れていく必要性を議論しました。
環境省環境教育推進室・室長訪問
長野県庁・副知事訪問
長野県立大学・健康発達学部こども学科
エクセルスクール学校交流
かねてから交流を続けてきたスウェーデン・レクサンド市から、「エクセルスクール」の2人の先生が後半から今回のツアーに参加しました。エクセルスクールは幼稚園と小中学校が一体となった私立学校で、ギッタンは幼稚園、シヴは小学校の先生です。国際交流を学校の柱の一つとしていて、今回は視察という形で各地の小学校や幼稚園を訪問し、日本の子どもたちへのレクサンドの紹介や、書道の授業や給食の時間などを体験しました。スウェーデンと日本の学校間の交流として、帰国後すでに子どもたちどうしの手紙のやりとりなどが始まっています。
当別町滞在中の2泊は、地元の家庭へホームステイ。それぞれ三浦さん、橋下さんのお宅にお世話になりました。レクサンドとは「LEK × TECプロジェクト」を3年前より続けていて、互いの顔が見える草の根の交流をこれからも続けていきます。
相楽台小学校で書道の授業体験【木津川】
スウェーデンの踊りを踊ろう【西当別小学校】
ホームステイでお世話になった皆さんと
野外で英語 @西当別小学校
西当別小学校では、ニュネスハムン自然学校のマッツによる「野外で英語」の模擬授業を5年生の子どもたちに行いました。シークレットバッグ、ABCの布、ジェスチャーゲームなど、グループになって野外で身体を動かしながら、英語に触れていきます。友だちとグループになり、寒い中でも校庭を走りまわりながら、笑顔が絶えない活動になりました。一般的な学校の校庭の運動場でも、自然の素材を探して工夫しながら、野外の授業を実施することができました。
ツアーをふりかえって
10月16日から11月3日までの20日間、日本を2周しながら各地をまわった今回のツアーで、500名を超える方々とお会いすることができました。各地でコーディネートしていただいた方々、お世話になった皆さん、どうもありがとうございました。これからですね。
今回のツアーを通して、「教室から野外へ」という学びの場を変えることへの期待と、今の学校での学びに対する疑問を数多くお聞きしました。特に、子育て中のお母さんたちとの出会いは、実際に日々我が子を育てているというパワーを実感させてくれるものでした。子どもたちの学びを共に作っていくための、確かなものを感じることができました。
いつもマッツと話をしているのは、今回の「野外で授業」は決して資格制度を作ったりせず、本を介してできるだけ活動をオープンにしながら、多くの人に自由に使ってもらえるようにしていくことです。この本に書かれているアクティビティの内容は、自然学校で実践されてきた一例にすぎません。スウェーデンでも書かれた後から常に修正され、変化しながら使われています。これが完成形ではなく、その変化の中に一緒に入っていきましょう。皆さんと一緒に作りかえていければと思っています。そのために、皆さんの実践や新しいアイディア、新しい情報を共有してください。そのようなネットワークを作りながら、子どもたちの毎日の学びが楽しいものになり、持続可能な社会を共に目指していける、主体的で創造的な学びにつながればと願っています。
次の目標は、幼稚園や小学校の先生たちの研修の場でこの「野外で授業」を紹介することです。そして、子育て中のご両親や、森のようちえんなど地域で活動するグループ、子どもの学びに関わる方々とつながりながら、実践を増やしていくことです。野外の楽しい活動を、子どもたちと共につくっていければと思います。
さあ、これからがスタートです。学びのお節介に一緒にお付き合いください。
NPO 法人 当別エコロジカルコミュニティー(TEC)
山本 幹彦
2018年12月 / 文とデザイン:山本 風音