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戦争について子どもたちとどのように話していますか?

2022. 5. 10 (tue)

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ウクライナで起きている戦争について、あなたは家庭で、または学校や幼稚園(保育園)で、子どもたちとどのように話していますか? もしくは、世界で起きている悲惨な状況に対して、わたしたちは子どもと共にどのように向き合えばいいのでしょうか。

今年(2022年)の3/27に、スウェーデンの野外プリスクールで保育士をされている巽朝菜さんをゲストに迎え、上記のテーマでお話を伺うオンラインイベントを開催しました。皆さんからの反響は大きく、すぐに申し込みが定員になりご参加いただけなかった方々もいるような状況でした。

イベントの簡単なレポートとして、スウェーデンの学校庁が公開した戦争について子どもと話すときのガイドラインと、朝菜さんよりご紹介いただいた実際の教育現場での子どもたちとの話し合いの実践例をご紹介します。










【スウェーデンの学校庁によるガイドライン】


スウェーデンの学校庁〈Skolverket〉は、戦争が始まって一週間も経たないうちに、「戦争や危機について子どもたちとどのように話すか」という簡単なガイドラインをホームページに掲載しました。そこには、子どもの感情や不安を受け止めること、質問を投げかけて話し合いの場を設けること、などといくつかのポイントが挙げられており、社会や周囲の世界で起きている深刻な状況について、大人と話したい(または話したくない)という子どものニーズに向き合うことの重要性について書かれています。


ーーー 以下引用(一部抜粋) ーーー



「子どもや若者と戦争や危機について話をすることについて」


・子どもの質問を話し合いにつなげる

子どもや若者は、周囲の世界で起きている物事に影響を受けます。いろいろな情報を耳にしたり、写真を見たりすることによって、不安に感じているかもしれません。不安への対処方法は一人ひとり違います。ある子は戦争や戦争が及ぼす脅威について、考えたくない、あるいは話したくないかもしれません。そのため、子どもたちから出てきた質問に沿って、対話につなげていくことが大切です。

大人から話題を振ることもできますが、子どもたち自身が話し合いをコントロールできるようにしましょう。あなたの不安や感情、または自分の意見を優先させてはいけません。大切なのは、子どもたちが安心できること、そして周囲の大人が希望を与えることです。

​以下のポイントを意識しましょう
・話し合いの内容を子どもの年齢に合わせる
・メディアから得た情報について、オープンエンドの質問を投げかけて子どもの気持ちや考えを聞く
・子どもの心配を真剣に受け止める
・穏やかに話す。自分の感情によって話し合いをコントロールしない
・安全と平穏をもたらすために、日々の学校生活のルーティンを続ける


・情報源を批判的に判断する/質問を投げかける

危機的な状況では、特にソーシャルメディア上で、誤情報やフェイクニュースが簡単に広まります。子どもたちが話している内容について、どこでその情報を見たり読んだりしたのか、質問したり見せてもらったりしましょう。

質問の例:
・TikTokやYouTubeで見たものを信じていますか?
・誰が投稿者かわかりますか?
・同じ内容を伝える他の情報源をチェックしましたか?


ーーー 引用終わり(日本語訳:山本風音) ーーー



掲載元:
https://www.skolverket.se/skolutveckling/inspiration-och-stod-i-arbetet/stod-i-arbetet/att-prata-med-barn-och-unga-om-krig-och-kriser?fbclid=IwAR2JRtJpNpThjtQbj-LxUOaq3buSTXsOzW5D06UdIYbeRG8HpQiUo5bBTgU
3月27日のイベントでは、ゲストの巽朝菜さんより、ご自身が勤務されているスウェーデン・ストックホルムの野外プリスクール(就学前学校)で実施した、戦争に関する話し合いの様子についてご紹介いただきました。
そのセッションでは、まずは子どもの話にじっくりと耳を傾けること、一人ひとりの感情に寄り添うこと、共感や思いやりを促すこと、できることや希望について話すこと、など、上記のガイドラインでも触れられているポイントに沿って対話が進められています。


*  *  *



「戦争について話をする」スウェーデンの教育現場から


・話し合いのセッション

4,5歳児(10人程度)
使用した教材:感情カード、地球儀、世界地図、ホワイトボード
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【感情カード】
①    いろいろなイラストが描かれているカード
②    悲しい、怒っている、嬉しい、いじける、疲れた、怖い
③    発話があまりない子でも、簡単な手話で感情を表現する
④    「気分はどう?」自分の今の気持ちのところにビーズを入れる





・子どもたちへの質問
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【戦争について誰かから何か聞いていますか?】

 … 少しの沈黙。(言っちゃいけないんじゃないか)

ー(一人の子がおそるおそる)「外国で戦争してるってお母さんから聞いた」
ー 「武器を使って殺し合いをしているって聞いた」
​ … 時間をかけながらゆっくりと、受け身の姿勢で子どもの話を聞いていく。



【戦争をしている国の子どもたちはどんな気持ちだと思いますか?】

ー「怖い」「悲しい」
​ … ホワイトボードに書き込んでいく

ー (大人から)「怒っているかもしれないね。ナーバスかも、寂しいかもしれないね。」
 … 子どもたちの感情を膨らませたいという意図。子どもたちの感情を尋ねることで、共感することや他の子どもたちを思いやる気持ちについて話し合う。

 
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【スウェーデンにいるみんなはどんな気持ちですか?】

ー 「Br
å!」(Good!)
ー 「安心。」
​ … 戦争が起きているのは外国のことであって、スウェーデンではないことを伝える
ー (感情カードを使って)穏やか、自由、感謝、愛情、嬉しい



【わたしたちにできることは何かありますか?】

ー 「お父さんに言われてお金を寄付したよ」
お金を寄付するってどういうこと? 何に使われると思う?

何が必要だと思う? 
ー「ごはん」「水」

他にどんなことができる?
ー「手紙を書くこと」

じゃあ手紙を書こう
ー「僕のお家が一部屋空いているから手紙を書こう」
​ー「V
älkommen(ようこそ)スウェーデンに来てください、って書こう」

どんなものを送ればいい?
ー「暖かい毛布」「子どもの絵本」「みんなで遊べるパズル」「ぬいぐるみ」

 … 戦争が起きている国の子どもたちに共感する、そのことについて話し合う
ー(大人から)「ウクライナだけじゃなく、ロシアの子どもたちも同じ気持ちかもしれないね」

 … 最後に希望について話す


 
スウェーデンでは、1歳〜5歳の子どもが教育を受ける権利を保障する場として、就学前学校が設けられています。また、スウェーデンの人口のうち25%が外国に背景を持っており、地域によってばらつきはありますが、就学前学校でも外国に背景を持つ親が多数います。そこでは、家族形態や話す言語、文化や宗教も多様であり、障害や発達障害、肢体不自由な子どもも含めて、さまざまな子どもたちが共に過ごすという意味で「社会の縮図」だと言えます。その中で、民主主義の価値観である「一人ひとりは違うけれど、みんな同じ価値がある」という認識を身につけていくのだと、朝菜さんは説明します。

上記のように、スウェーデンの就学前学校(日本の幼稚園、保育園、こども園にあたる)の根幹には、スウェーデン社会が土台とする人権と民主主義の価値観、そして「子どもの権利条約」の理念があります。就学前学校は学校システムの一部として位置づけられており、就学前学校のカリキュラム(Lpfö18)では、民主主義がその基本的な価値観として掲げられています。
また、実際の教育現場においても、そのような価値観に基づき、子どもたちの対話や、一人ひとりが参加する権利や影響を与える権利、そして自分の考えや意見を表現することなどが重視されています。(*)

そうした考え方の中で、こうした話し合いや対話こそが、民主主義の価値観を実現していくツールとして機能しているのだと思います。自分の感情や意見を相手に伝える、相手の声に耳を傾けるといった日々の対話の実践は、身のまわりの社会や世界と関わっていくことです。それは、戦争という深刻で悲惨な状況に向き合うような場面にこそ、大きな力を持つのではないでしょうか。



*参考文献:エリサベス・アルネール&ソルヴェイ・ソーレマン著『幼児から民主主義 ースウェーデンの保育実践に学ぶー』伊集守直・光橋翠訳、新評論、2021年
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